化粧品やフェイスマスク、食品トレー用吸水パッド、医療用ガーゼ、さらにはペット用の底敷きシートまで、日常の中で広く使用されてる「吸水シート」。地球環境への配慮が求められる今、原料となる石油に代わる「サステナブルな選択肢」が注目されています。植物由来の吸水性素材「EFポリマー」をもとに、まったく新しい吸水シートの開発に成功したスタートアップ「EFポリマー」と老舗メーカー「綜研化学」。異色のタッグによって誕生したこのシートには、どのような可能性が秘められているのか。開発に携わった両社の担当者に、誕生までの道のりと今後の展望を伺いました。左から綜研化学株式会社 新規事業企画部 大久保さん、鈴木さん、紺野さん、EFポリマー開発担当 ポリマー研究開発スペシャリスト 中川さんQ連携のきっかけは?技術に惹かれて始まった協業(綜研化学 大久保さん)「始まりはEFポリマーさまが登壇したスタートアップ向けのピッチイベントでした。そこで植物由来の吸水性素材というユニークな技術に触れた弊社の担当者が『何か一緒にできるのでは』と興味を持ち、声をかけたのが最初の一歩です。当初は明確なプランがあったわけではありませんでしたが、2023年の7月にオンラインミーティングを実施し、具体的な話し合いがスタートしました」共通していたのは”樹脂”という分野(大久保さん)「両社ともに『樹脂』という共通分野を持ちつつ、EFポリマーは素材開発、綜研化学は応用技術と加工ノウハウを持っており、連携の相性が良かったのも大きなポイントでした。弊社としても環境への負荷を減らす製品をつくりたい、石油由来素材から植物由来素材へのシフトを目指したいという思いはありながらも、自社単独では難しさも抱えていた中、EFポリマーさまとの連携によって新たな可能性が広がりました」Q開発の始まりは?シート化の発想は「粘着剤」の知見から(綜研化学 紺野さん)「約2年前にEFポリマーの顆粒状の素材を試験したことから始まりました。まずは実際に手に取り、本当に吸水性があるのかを社内で検証。結果、水をしっかり吸収・保水する性能が確認でき、『植物由来の原料で、ここまでの吸水性が出せるのか』と大きな驚きがありました。吸水性の高さがわかったことで、次に社内で検討したのがこの素材をどう活かすかという点です。綜研化学はもともと粘着剤の開発を主力としており、粘着テープの素材設計や提供に長年携わってきた背景があります。そのため自然と、『シート状にできれば活用の幅が広がるのではないか』というアイデアが生まれました。弊社の事業は、テープメーカーに粘着剤を提供するBtoBの形が中心ですが、一部では自社での加工製品の開発・製造にも取り組んでいます。今回のプロジェクトは、そうした事業基盤を活かしながら取り組んだ新しいプロジェクトでした」こうして誕生した、持続可能な社会に貢献するサステナブル吸水素材「EFポリマーシート」。2025年4月7日に発表され、本格的に販売を開始しました。EFポリマーシートの特徴100%自然由来の超吸水性ポリマーと生分解性不織布からなる次世代の吸水シート自重の10〜20倍の水分を吸収でき、使用後は自然環境下で分解されるため、環境負荷を大幅に軽減敏感肌にも優しく、美容・医療・農業・食品包装・ペット・アメニティなど多分野で活用が可能詳細はこちら:https://efpolymer.jp/news/efp-sheet-soken-chemicalsQ EFポリマーシートにはどんな可能性がある?EFポリマーシートの未来について話す大久保さんと中川さん循環型素材だからこそ、農業現場で活きる(綜研化学 大久保さん)「私たちが特に価値を感じているのは、原料から廃棄まで自然の循環の中で完結するという、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の構造ができている点です。今後はこの特性を活かし、まずは美容向けや農業資材としてEFポリマーシートの展開に注力したいと考えています。農業向けはたとえば、植物の根元に敷くことで土壌の保水性を高めたり、乾燥を防いだりする保水シートなど、これまで「ありそうでなかった」製品づくりを目指しています。農家の皆さんの植物栽培をサポートできるような、実用性の高いツールとして広げていきたいですね」燃やさないという選択肢(EFポリマー 中川さん)「農業用の保水シートとしての活用でいえば、『マルチシート』と呼ばれる、畑の地面に敷いて水分の蒸発を防ぐ黒いシートをご存知でしょうか?従来のマルチシートは石油由来で、使用後は回収・焼却が必要です。特に高齢の農家さんにとっては、敷いて・外して・運んで捨てるという工程がかなりの負担になります。そこで、EFポリマーシートのように使い終わったらそのまま土に還る素材があれば、手間もコストも大きく減らせるのです」EFポリマーの可能性はそれだけではありません。医療現場で使われている吸水シートや使い捨ての下敷き、 製品品のラベルや包装材、キャンプや音楽フェスなどで使われる泥よけ・吸水マット、昆虫飼育の床材(カブトムシやクワガタなど)など。いずれも従来は『使い終わったら燃やす』が当たり前だったものばかりです。EFポリマーシートなら、「燃やさず、土に還す」という新しい選択肢を提示できます。環境に配慮した製品が求められる今の時代、アイデア次第でさまざまな分野の素材を置き換えられます。たとえば、1.特殊農業用途保水性と分解性を兼ね備えた特殊資材として。2.医療・衛生分野血液・体液を吸収するガーゼや傷パッドとして。3.美容・ヘルスケアフェイシャルシートなど、化粧水を浸透させる用途。4.製品包装土に還るラッピング材やラベルに、焼却不要でサステナブルなパッケージ資材として。5.ドローン農薬散布用の使い捨てシートドローンで農薬を散布する際のシートとして。6.野外フェス・キャンプ場の自然分解トイレマット・床敷き環境への配慮、片付けの手間や廃棄コストの削減を考慮した土に還るトイレマットや泥よけシートとして7.災害時・避難所用の衛生用使い捨て敷物焼却不要の清潔環境を実現するシートとして。8.水中養殖(海藻・貝類)向けの生分解性保護シート水中で海藻や貝類の保護をする生分解性シートとして。9.葬儀・樹木葬向けの自然分解シート自然に還る埋葬用シートとして。10.昆虫食・昆虫飼育用の敷き材シート自然素材思考の飼育ニーズに合わせた昆虫食・昆虫飼育用の敷き材として。11.製造現場のカッティング用離型シート生分解性のカッティング用離型シートなど、環境負荷の少ない工程資材として。様々な可能性があるEFポリマーシート。開発にあたり、苦労はあったのでしょうか?Q苦労した点は?苦労した点について話し合う紺野さんと鈴木さん最も困難だった“シート化”の壁(綜研化学 紺野さん)「最も大きなハードルとなったのはシート化の工程でした。もともとシート化が難しい素材だったため、それをどう均一で平らなシート状に加工するかという過程が想像以上に難易度の高い作業でした。最初に顆粒状のEFポリマーで試してみたのですが、シートをつくろうとしても、なかなかうまくいきませんでした。特に難しかったのがコーティングの工程です。EFポリマーを均一に、平らなシートとして成形するのは非常に難しく、試行錯誤する日々が続きました。そこで改めて、EFポリマーの素原料で試すことで再スタートしました。綜研化学が持つ配合技術やノウハウを活かして試作を重ねた結果、ようやく目指していた形のシートにたどり着くことができたんです」最も難しかった工程は、EFポリマーを均一に平らにする工程だったというQ苦労を乗り越えられた理由は?初めての「挑戦」が原動力に(綜研化学 鈴木さん)「この案件を担当することになったのは、ちょうど私が新しい部署に異動したばかりの頃でした。まわりの環境も変わり、取り組むテーマも初めてのことばかり。そんな中で、このEFポリマーシートの開発は、自分がこの部署で最初に作り上げる一つ目だったんです。だからこそ、「どうしても形にしたい」という気持ちが自然と湧いてきて、モチベーション高く取り組むことができました」植物由来素材への確信(綜研化学 紺野さん)「このプロジェクトに強く惹かれたのは、100%植物由来という素材の持つ可能性を感じたからです。サステナビリティが社会全体の関心事になっている今、石油由来が主流の吸水性シートに、環境負荷の少ない選択肢を提示できることに、大きな価値を感じたんです。『この素材を世の中に出すことができたら、きっと誰かの心に刺さるはずだ』そんな思いが、開発を続ける大きなモチベーションになりました。また、植物由来の素材でシート化されている製品は、ほとんど存在しないという点も、挑戦したくなるポイントでした。誰もやっていないからこそ難しい。けれど、だからこそやってみる意味があると思えたんです」Q今後の展望について教えてください異分野との融合が生む技術革新(綜研化学 大久保さん)「これまで綜研化学は、ディスプレー用の製品や自動車部品といった工業用・高機能素材を中心に事業を展開してきました。いわばBtoBのものづくりの世界で、精度や性能を追求してきたタイプの企業です。そんな私たちにとって、農業や化粧品といった分野との連携は、新しい挑戦でした。普段は関わることの少ない業界とタッグを組むことで、自社の技術を応用する視点が広がり、新たな発見も生まれます。事業としても成長のチャンスですし、技術も新しい視点を吸収できる、まさにいいことづくめの取り組みだと思っています。これからも、自社の技術をこれまでにない領域で活かしていく。そんな流れをどんどん加速させていきたいです。会社としても、そして個人としても、この先が楽しみですね」農業の現場から始める、人と地球への配慮(EFポリマー 中川さん)「EFポリマーは創業以来、地球にも人にもやさしいサステナブルな製品を届けていきたいと考えています。特に注力しているのが農業分野です。食べることは生きること。農業は私たちの暮らしに欠かせない産業ですが、その現場では長年、石油由来の資材が多く使われてきました。その結果、土壌にとって負担となる可能性も否めません。だからこそ、EFポリマーシートのような植物由来の素材が普及すれば、土壌の性質を改善し、より良い環境づくりにつながるのではないかと感じています。綜研化学さんが開発してくださったこのシートを、まずは農家さんや地域の方々にしっかり届けていきたい。そこから少しずつ、未来に向けた循環を広げていけたらと思っています」サステナブルな吸水製品の未来を創りたい持続可能な価値を実装する次世代素材としてEFポリマーシートは現在、農業資材、医療衛生、パッケージング、化粧品など多様な分野における用途開発と検証を進めており、今後の製品化・展開に向けた準備を進行中です。石油由来素材からの転換や、環境配慮型製品への移行は、今後の市場選択においてますます重要なテーマとなります。EFポリマーシートは、機能性とサステナビリティを両立させながら、製品の新たな付加価値創出やグリーントランスフォーメーション(GX)の推進に貢献できる素材です。ご関心があれば、EFポリマー株式会社までお問い合わせください。会社紹介綜研化学株式会社:1948年、戦後復興の一助として創業した綜研化学は、化学の力で人々の暮らしを支えてきました。粘着剤や微粉体などのケミカル事業に加え、プラントエンジニアリングやメンテナンスなどの装置システム事業も展開しています。アジアを中心に海外展開も進め、日常のあらゆる「当たり前」を、見えないところで支える、そんな存在です。EFポリマー:自然由来の独自技術で水不足や廃棄物問題など、地球規模の環境課題に挑むスタートアップです。廃棄されていた果物(オレンジやバナナなど)をアップサイクルし、世界で初めて完全生分解性を持つ吸水性ポリマーを開発。「循環型エコシステム」を掲げ、農業の在り方を根本から変えることを目指しています。石油由来が主流の吸水性ポリマーに代わる自然素材として注目されており、農業分野だけでなく、GX(グリーントランスフォーメーション)を推進するさまざまな業界とも連携し、持続可能な未来の実現に取り組んでいます。