今回のインタビューでは、EFポリマーのR&D(研究開発)チームで活躍する英国出身のマイクロバイオロジー研究者、マーティン・チャンさんにお話を伺いました。イギリスでのアカデミックキャリアを経て、沖縄の地で新たな挑戦を続ける彼のこれまでの歩み、現在の研究内容、そしてCEOのナラヤン氏やチームとの関わりについて深掘りしていきます。■ イギリスから沖縄へ:研究者としてのキャリアの軌跡Q:研究者としてのキャリアを教えてください。私の情熱は常に『人々の健康を助けること』に向けられてきました。アカデミックキャリアを過ごしたイギリスでメディカルマイクロバイオロジー(医学に関連する細菌、ウイルス、真菌、寄生虫などの微生物学)を学び、修士号を取得しました。その後、私は2つの異なるキャリアの選択肢に恵まれました。1つは医師になること、もう1つは博士号を取得することでした。常に科学研究を通じて新たな発見をすることに強い情熱を抱いていたため、後者の微生物学の博士課程取得を目指す道を選びました。博士課程では、感染症と戦うための新しい戦略の開発、特に赤痢の治療に重点を置いて研究を行いました。その研究の一環として、大阪大学で働く機会を得ました。(これが初めての日本での仕事経験でした。)充実した設備と刺激的な環境の中で、高解像度電子顕微鏡を用いた細菌の研究を行うと同時に、日本での生活にも魅了され、博士号取得後もここで働き続けたいと思うようになりました。Q:OISTで勤務することになったきっかけと、 OISTで行っていた研究について教えてください。大阪大学で研究を行っていた際、同僚から沖縄にある新しい先進的な研究機関、沖縄科学技術大学院大学(OIST)について聞き、その最先端の設備に感銘を受けました。しかし、実は最も心を惹かれたのは、沖縄の美しい島と温暖な気候でした。私が育ったイギリスはいつも寒くて雨が多い国なので、沖縄の穏やかな風土に強く惹かれて、沖縄に移住したいという気持ちが募りました。 OISTでは、新竹積教授の設計に基づいた新しいタイプの電子顕微鏡の開発に携わりました。具体的には、水和された生理的状態のウイルスや細菌を観察可能にする低エネルギー電子ホログラフィーを用いた顕微鏡の研究で、特にこの新しい顕微鏡を病原細菌の研究に活用することに興味を持ち、その性能の調査に注力していました。Q:EFポリマーへの入社のきっかけと動機を教えてください。OISTでの8年間の勤務中に、妻の紹介でEFポリマーCEOであるナラヤンと出会いました。ナラヤンがマイクロバイオロジー分野の研究者を探していたこと、そして私自身もOISTで電子顕微鏡の研究をやりきった気持ちがあったため、再びマイクロバイオロジーの研究に戻ることに魅力を感じました。『干ばつに苦しむ農家を救う』というナラヤンのビジョンが、わたしが常に抱いている『科学の力で人々を救いたい』という思いと重なったことも大きな理由です。ナラヤンは人を引きつけるカリスマ性があり、彼と共に働くことは会社にとっても、自分自身の成長にとっても非常に価値のあるものだと感じました。■ EFポリマーでの使命:科学で農業と社会を救う現在、マーティンさんを含むEFポリマーのR&Dチームでは、以下の3つの研究目標に取り組んでいます。1. 農業用ポリマーの改良現在販売中の農業用ポリマー製品の性能向上や、使用方法の最適化を目指した研究。農業現場での効率性及び、持続可能性向上の追求。2. 新しい用途の開拓農業分野を超えた、建築材料や医療、環境保護など、多分野でのポリマーの新規活用方法の可能性の検討。詳しくはこちらの記事をご覧ください。▶ 農業分野を超えた挑戦とは?|EFポリマー研究開発スペシャリスト・中川康インタビュー3. 原料の多様化現在の製品の原料であるオレンジやバナナに加え、その他の作物残渣(ざんさ)の有効活用による循環型生産の実現と更なる選択肢の検討。その中でも、マーティンさんは「原料の多様化」の研究に注力しており、日々奮闘しています。社会には多くの廃棄物が存在します。これらを原料として活用することで、持続可能な循 環型経済に大きく貢献できると信じています。Q:元々、病原菌の研究をされていたと思いますが、 現在のEFポリマーの研究に通じる点を教えてください。以前の細菌研究と現在の仕事には強い関連性があると思っています。以前の研究では、病原性細菌が病気を引き起こすのを防ぐ方法を探していました。そのため、バクテリアを操作するスキルやテクニックが求められました。現在のEFポリマーでの仕事では、細菌を操作するという技術も活かしていますが、従来の「細菌がどのように人間に害を及ぼすか」ではなく、「細菌が社会に役立つ方法」といった、細菌の有益な側面を研究し、社会に貢献できる方法を探っています。私たちのモットーである『母なる自然はあらゆる問題の解決策を持っている』という言葉の通り、その解決策の多くは細菌がもたらしてくれると信じています。■ アカデミックな研究と企業での研究の違いQ:研究者として、大学機関で働くことと企業で勤務することの違いは何ですか?学術研究の世界では、論文執筆や教授職を目指すことが一般的なゴールとされています。研究に専念できる一方で、その成果が社会に与える影響を実感するまでには時間がかかることも少なくありません。ー方で、企業での研究には独自の魅力があります。企業研究では、スキルが直接的に結果に反映され、会社や社会に即座に影響を与える実感が得られるのでワクワクします。ただし、その分プレッシャーも伴います。企業での研究ではチームで課題解決に取り組むことが多く、科学的な専門知識だけでなく、コミュニケーション能力も求められることも大きな違いです。長期的な研究目標に向かうだけでなく、企業では環境の変化に応じて発生する短期的な課題にも対応しなければなりません。ナラヤンとは頻繁に会議を行い、課題解決や目標達成に向けて戦略を練っています。■ 信頼と柔軟性が生む効率的な研究環境Q:EFポリマーはどんな会社ですか? 社風やチームの雰囲気を教えてください。ナラヤンは社員を信頼し、業務の効率化について、個々に責任を任せてくれます。研究者にとって重要なのは結果を出すことであり、自分のペースで研究に集中できる環境を提供してくれることは非常にありがたいです。EFポリマーは比較的小規模な企業であり、そのため仲間との業務だけでなく、他部門の社員とのコミュニケーションも頻繁に行われます。実験室で過ごす時間が多い研究者にとって、日々の会話は非常に価値があり、細かなコミュニケーションを基に仕事を進めることで、より強固なチームワークが築かれ、企業で働くことへの魅力を感じることができています■ 家庭と仕事の両立が叶う職場Q:仕事とプライベートはどのようにバランスを取っていますか?私には三歳の息子がいて、妻も働いています。入社前、家族との時間を大切にすることがわたしのライフスタイルにとって非常に重要であることをナラヤンに伝えました。ナラヤンは入社前も入社後も変わらず、その思いに理解を示してくれています。例えば、息子が体調を崩した際や妻が仕事で忙しい時には、帰宅時間の調整やスケジュール変更を快く承認してくれます。これもまた日々のコミュニケーションと信頼の上で成り立つことだと思っていますし、仕事のモチベーションにもつながっています。■ 科学の力で農家の未来を救いたいQ:これからEFポリマーで働く研究者や、 日本でキャリアを築きたい方へのメッセージをお願いします。EFポリマーは沖縄に本社を構えていますが、インドにもオフィスを持ち、多様なバックグラウンドを持つ社員が集まる国際的なチームです。国際的な環境に適応できる方にとって、非常に働きやすい会社だと思います。また、市場は米国やヨーロッパを中心に拡大しており、さらなる政長が期待されています。私達の研究は、干ばつに苦しむ農家を救うだけでなく、廃棄物を有効活用することで持続可能な社会の実現を目指しています。これまでのキャリアで培った知識を活かしながら、新しい分野に挑戦できるこの環境に感謝していますし、これからさらに多くの農家や一緒に働く研究者との出会いを楽しみにしています。〜編集後記〜英国出身のマーティン・チャン(Martin Cheung)さん。物腰やわらかな雰囲気と、お話の中から感じられる「科学の力で人を助けたい」という強い思いが印象的な素敵な研究者です。欧州車やラザニアが大好きで、趣味はギターやテニス、ゲームと多彩。葉野菜全般が好きだそうです。EFポリマーの飛躍に欠かせないバイオテクノロジーの研究。今後の活躍に大いに期待しています!